大阪地方裁判所 平成4年(ワ)8529号 判決 1994年7月18日
原告
岡野栄美
被告
大阪和光タクシー株式会社
主文
一 被告は原告に対し、金一三四七万六六九九円及びこれに対する平成元年五月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを七分し、その五を原告、その余を被告の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は原告に対し、金四六六八万五三一三円及びこれに対する平成元年一月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
普通乗用自動車と原動機付自転車が衝突し、原動機付自転車の運転者が傷害を負つた事故について、普通乗用自動車の運行供用者かつ普通乗用自動車の運転者の雇用者に対して自賠法三条ないし民法七一五条に基づき損害賠償を請求した事案である
一 当事者に争いがない事実及び証拠上容易に認められる事実(争いのある事実は証拠適示する。)
1 本件事故の発生
原告(昭和四二年一〇月七日生、本件事故当時二一歳)は、平成元年五月九日午後一一時二〇分頃、原動機付自転車(箕面市お二六五〇)(原告車両)を運転し、大阪府豊中市浜二丁目二〇番五〇号先交差点(本件交差点)を、東から北に向かい右折する際に、対向直進してきた丸岡運転の普通乗用自動車(大阪五五き一九四六)(被告車両)と衝突した。
2 帰責事由
被告は、被告車両を所有し、運行の用に供していたところ、本件事故が発生したものであるから、自賠法三条に基づき、また、丸岡は被告の従業員であつて、本件事故はその事業の執行につき引き起こされたものであるから、民法七一五条に基づき、本件事故によつて原告に発生した損害を賠償する責任がある。
3 既払い
被告ないし被告加入の自賠責保険から、原告に対し、合計一一一九万円が支払われた(一〇六九万円については当事者間に争いがなく、五〇万円については乙七による。)。
二 争点
1 損害
2 過失相殺
(一) 被告主張
原告車両は、走行車線から早回り右折中に、被告車両と衝突したものであるから少なくとも七〇パーセントの過失相殺がなされるべきである。
(二) 原告主張
原告は、追越車線から適法な方法で右折した後、対向直進車の存否を確かめるために停止していたところを時速約八〇キロメートルで進行したきた被告車両によつて衝突されたものであるから、原告には、過失はない。
第三争点に対する判断
一 損害
1 治療費 一八六万六九九〇円(原告主張同額)
甲六、乙八によつて認めることができる。
2 入院雑費 三四万九二〇〇円(原告主張同額)
甲四、原告本人尋問の結果によると、原告は、本件事故によつて、左下腿開放骨折、左外側広筋断裂、顔面打撲挫創の傷害を負い、合計二九一日間入院したと認められるところ、一日当たりの雑費としては少なくとも原告主張の一二〇〇円を要したと解するのが相当であるから、右のとおりとなる。
3 付添看護費用 五二万六二六九円(原告主張職業付添費用八九万〇七九三円、家族付添費用九一万八〇〇〇円)
甲八ないし一二によると、職業付添費用は五二万六二六九円であると認めることができる。
家族付添費用については、原告が付添を要する情態であつた旨を裏付ける診断書等がないので、これを認めることができない。
4 入通院慰籍料 二八〇万円(原告主張三〇〇万円)
甲四ないし六によると、原告は、本件事故によつて前記の傷害を負い、平成元年五月一二日入院し、同年五月一五日計六箇所の骨折に対し骨接合の手術を受けたが、中枢側の脛骨中央部の骨融合が遷延したものの、同年一〇月一八日退院し、経過観察し、平成二年一月三一日再入院し、同年二月一九日仮関節手術(内固定及び骨移植術)の手術を受け、何とか骨融合を見て、その後も同年八月に通院し、同年九月五日から同年九月二八日まで入院し、リハビリを施行したものであるところ、この入通院経過、期間に照らすと、右をもつて相当と認める。
5 休業損害 二五八万二九四九円(原告主張三一一万〇二八一円)
甲五、原告本人尋問の結果、弁論の全趣旨によると、原告は、本件事故前、健康な二一歳の女子であって、昼はそば屋に、夜はスナツクに勤務して収入をえていたと認められるところ、その額については、少なくとも、本件事故時である平成元年賃金センサス産業計企業規模計女子学歴二〇歳から二四歳の平均賃金二三二万四四〇〇円の八割の賃金を得ていたと推認するのが相当であつて、本件事故時である平成元年五月九日の翌日から症状固定日である平成二年九月二八日までの五〇七日間休業したと認められるから、その損害額は左のとおりの計算となる。
232万4400円×0.8÷365×507=258万2949円(小数点以下切り捨て、以下同じ。)
6 後遺障害慰籍料 八〇〇万円(原告主張一二〇〇万円)
甲五、原告本人尋問の結果によると、本件事故による傷害によつて、原告は左下肢に仮関節を残し、著しい運動障害を残すという自賠法二条施行令別表七級一〇号に該当する障害を負つたものであるから、それについて原告を慰籍するには、右金額をもつて相当と認める。
7 後遺障害逸失利益 三〇八〇万七九九〇円(原告主張三一二七万三二〇七円)
原告は、前記の症状固定時である平成二年九月二八日には二二歳であつたところ、稼働可能年齢である六七歳までは、平均すると、平成二年賃金センサス産業計企業規模計女子学歴計二〇歳から二四歳の平均賃金二四三万六二〇〇円の年収を得る蓋然性があったところ、前記の程度の後遺障害からは、全期間その五六パーセントが喪失したと認めるのが相当であつて、中間利息を新ホフマン係数によつて控除し、事故時の原価を算出すると、左のとおりとなる。
243万6200円×0.56×(23.534-0.952)3080万7990円
8 損害合計 四六九三万三三九八円
二 過失相殺
1 本件事故の態様
(一) 甲二、三、一三、一四、甲一五の一、二、甲一六の一ないし三、甲一七の一ないし四、甲一八の一、二、乙一、証人丸岡、証人武井の各証言、原告本人尋問の結果(一回、二回)によると、以下の事実を認めることができる。
本件交差点は、南北方向の直線路と東西方向の直線路が交わる十字型の交差点であつて、東西方向は歩車道の区別がある片側二車線の道路(本件道路)であつて、本件道路の西側の東行き車線、東側の西行き車線とも、第一車線が直進及び左折車線で、第二車線が直進車線となつていた。その概況は別紙図面のとおりである。また、東西道路の本件交差点の西側約三〇メートルの地点からは北側に道路がカーブ(本件カーブ)しており、西側からも東側からも見通しの悪い状況であつた。本件交差点は、アスフアルトで舗装されており、路面は平坦であつて、事故当時は乾燥していた。本件交差点付近の道路は最高速度は時速四〇キロメートルに規制されており、駐車転回が禁止されていて、信号機は正常に作動していた。本件交差点付近は市街地であつたが、本件事故当時の交通は閑散であつて、照明によつて明るく、本件交差点の付近の見通しは、西からも東からも前方、右方、左方とも良好であつた。
丸岡は、被告車両を運転して、本件道路の東行き第一車線を本件交差点の西側から時速六〇キロメートルを相当程度超える速度で、本件カーブを経て本件交差点に向かつて進行してきたところ、別紙図面<2>付近に至り、同アないしその西側を走行している原告車両を初めて認め、急制動し、ハンドルを左にきつたが及ばす、同×ないしその西側付近で、被告車両の左前角付近と原告車両右側面が衝突し、そのまま進行して同<4>付近でようやく停止した。
原告は、ヘツドライトを点灯し、原告車両を運転して、本件道路の西行き第一車線を本件交差点の東側部分を西行きに時速約三、四十キロメートルで直進進行していたところ、本件交差点を右折するために、方向指示をしながら、別紙図面「原告車両」付近から、徐々に進路を第二車線側に変えたが、本件カーブの存在や被告車両の速度が速かつたこともあつて、被告車両には気付かず、徐行や停止をせず、そのまま進行していたところ、前記の位置、態様で、被告車両と衝突した。
(二) なお、甲一八の一、二、原告本人尋問(二回目)における供述中には、原告は、本件事故の際、一旦、本件交差点の前で、右折車線である第二車線に道路変更をし、その後、右折した旨の部分があり、それが、原告本人尋問の結果(一回目)と矛盾するのは、図面中の横断歩道の位置が理解できなかつたこと及び図面に右折車線の表示がなかつたことによると供述するものの、原告の供述するような思い違いが生じたとしても、それ自体が記憶の正確性を疑わせるものであるし、そのような供述の変遷のあつた前に作成され、当裁判所に提出されていた乙一の記載内容及びそれに目撃者として記載されている第三者である武井の証言内容に比べると、信用性が低い(なお、証人武井の証言中には、被告車両の衝突位置等の点で、客観的な証拠や原告(第一、第二回)及び被告本人尋問の結果と矛盾する部分もないわけではないが、証言時と本件事故時との間で約五年経過していることからやむをえない面もあり、乙一の存在や被告車両の速度の点、原告車両のヘツドライト点灯の点、原告車両の進路が、第一車線から第二車線に急に曲がつたものではなく、徐々に曲がつたものであること等その証言中に被告側に不利な事実も含まれていることも合わせ考えると、右記の矛盾から、証人武井の証言を、まつたく体験していないことについての作為的なものとして排除すべきでないばかりか、事故という特異な体験をしたので、関連する細かな点についての記憶は薄れているが、事故の態様の根幹部分は覚えていることもありうることも考えると、記憶が不正確であるとして、証言全体を採用できないとすべきでなく、各論点について、証言の内容、他の証拠との関係等を考慮して、個別に信用性を判断すべきである。)。
また、甲一八の一、二、原告本人尋問(第一、第二回)中には、原告は、右折開始後、本件交差点中央付近で停止し、対向直進車のないことを確認した後、停止中に本件事故が起こつた旨述べる部分もあるが、被告車両と原告車両の重量及び被告車両が相当高速であつたことを考えると、原告車両が停止していなくとも、衝突後原告車両と被告車両がほぼ同一方向に進行していることもありえることであるし、原告の供述中には、停止した後のことはなにも覚えていないとする部分、自分は法規に従つていた以外覚えていないとする部分もあり、供述が曖昧で、内容もやや矛盾しているものであるし、甲二によつて認められる路上の擦過痕、制動痕からは、衝突位置は、前記認定の位置付近と考えるのが自然であつて、その位置は、被告車両が走行していた車線上であるから、通常その地点に停止していたことは考えにくいことも合わせ考えると、証人武井証言及び被告本人尋問の結果に照らし、原告の右各供述を採用することはできない。
(三) また、証人丸岡の証言中には、被告車両が本件交差点に進入した際の速度は時速約五〇キロメートルである旨の部分もあるが、甲二によつて認められる現場に被告車両の制動痕が一七・一メートル印象されていること、警官が本件事故後現場で走行実験し、時速約六〇キロメートルで制動した際にまつたくスリツプ痕がつかなかつたこと、被告車両はかなりの速度であつたとする証人武井の証言に照らし、信用できない。
また、証人丸岡の証言中には、原告のヘツドライトは点灯していなかつた旨の部分もあるが、丸岡が原告車両を目撃したのは衝突直前の一瞬のことであり、その供述内容もやや曖昧であるし、証人武井の証言、原告本人尋問の結果(第一回)に照らし、信用できない。
また、証人丸岡及び証人武井の各証言中には、原告が方向指示をしていなかつたとする部分もあるが、前記のような理由で、証人丸岡はヘツドライトまで見落としていた可能性も高いものであり、証人武井のこの点の証言はやや曖昧であるので、原告本人尋問の結果(第一回)に照らし、いずれも採用できない。
2 当裁判所の判断
前記認定の事実からすると、原告にも、直進車両の存在及び動向に気付かず、徐々にではあるが、第一車線から早回り右折した落ち度があるので、相応の過失相殺をすべきところ、一方、丸岡も、最高速度が時速四〇キロメートルに規制されていて、本件カーブの見通しが悪いので最高速度以下に減速すべきである道路を、時速六〇キロメートルを相当超える速度で進行した上、照明によつて明るい交差点で、ヘツドライトを点灯し、方向指示をし、徐々に右折進行してきた原告車両を、第二車線から対向車線に進出する位置である別紙図面アないしその西側付近に至るまでまつたく発見できなかつたものであつて、前方不注視が著しいこと、本件カーブによつて見通しの悪い道路で被告車両が高速で進行したことも、原告が被告車両を発見できなかつた一因であることも考慮すると、原告側の過失としては五割をもつて相当と認める。
3 過失相殺後の損害額 二三四六万六六九九円
四 既払い
右認定の損害額より、前記の既払い金一一一九万円を控除すると、一二二七万六六九九円となる。
五 弁護士費用 一二〇万円
本件事故の経過、認容額に照らすと、本件事故に基づく弁護士費用は、右金額をもつて相当と認める。
六 結論
よつて、原告の請求は、被告に対して一三四七万六六九九円及び不法行為の日である平成元年五月九日から支払済みまで年五分の割合の遅延利息の支払を求める範囲で理由がある。
(裁判官 水野有子)